高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

今夜、すべてのバーで

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

いろいろとアルコール依存症について調べた上で自身の経験をもとに書いてるっぽいのが好感もてるよなあ。女の子は魅力的だし、医者は意地悪で不躾だが腹を割って話せるというふうに自然に描写されている。

人間の体は一見精妙そうに見えて変なところで単純だ。かといって簡単な機械論では逆立ちしても説明できない幽玄な構造を持っている。人間の肝臓ひとつぶんの働きを、現代科学の機械でまかなおうとすると、フラットに並べて東京都ひとつぶんの面積がいるそうだ。そんなものをおれは十年がかりでネジひとつ、ボルト一個ずつ緩めて一生懸命壊していたわけだ。
p.119

「立ち去っていく側は格好はいいわよ。この前、夜中のテレビで『シェーン』を見たわ。あの坊やが“シェーン・カムバック!”って叫んでも、シェーンは去っていくだけよね。当たり前よ。忘れものして取りに帰ってきたりしたら、ずいぶん間抜けだもの。シェーンは二度と帰ってこない。だって、映画がそこで終わりなんだもの。でも、もしカメラがずっと回り続けているのなら、あの牧場でお母さんと坊やは黙々と働き続けるのよ。毎日まいにち、木の切り株を抜いたり、麦を植えたり、牛にエサをやったり、単調な作業を続けていく。坊やは年々大きくなって、そのうちに大人になるんだろうけど、坊やの心の中で、シェーンは思い出になって生き続けている。それも年々きれいなあざやかな思い出になっていく。シェーンが格好よく立ち去ったっていうのは、あいつの卑怯な手口なのよ。思い出になっちゃえば、もう傷つくことも、人から笑われるような失敗をすることもない。思い出になって、人を支配しようとしているんだわ」
p.145