高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

もうひとつの夏へ

そして、目が覚めたときぼくは、この世界の、アパートの自分の部屋のベッドの中にいた。目にうつる天井のしみも、壁のポスターも、机や棚の上からあふれ出して床にまで積み上げられている本や原稿用紙やカセットテープの山も、薄汚れたカーテンのすきまから見える樹の梢も、遠くから聞こえてくるクラクションや犬の啼き声も、みんないつもと同じようだった。何もおかしなところは見つからなかった。……
……しかし、昨日ぼくはどこにいたのだったろう? あの荒廃した未来都市で肉体の大部分を破壊され、コンピュータに接続されて、二つの世界がぶつかりあって崩壊するのを今か今かと待ちうけていたのは、あれは、いつのことだったろう?
……そして、その瞬間、ぼくには全てがわかったんだ。……ぼくが今いるこの世界では、この夏のあいだ、特別なことは何ひとつ起こらなかったのだ。ぼくらが経験した、あのいくつもの驚くべきできごと、それらは、この世界によく似た、もうひとつの別の世界でだけ起きたことなのだ。

謎の男の警告に居合わせたぼく、高校生のカップル、コンビニ店員の4人が異世界へと渡り、2つの世界を救う……。この本で語られる冒険は世界から失われるのだと示しておいて、それから話に入る……というのが、夏という季節の不思議な効果と、すばらしいタイトルもあって、ノスタルジーめいたものを感じさせる。語り口も平静で、よい。時おり実在のSFへの言及があって、作者の好みを伺わせる。
もう20年以上前のラノベだがそれほど古臭さを感じさせないSF/ファンタジーである。主人公は青少年かと思いきや30のおっさんで、というかこれは作者本人ということになってるのだが、じゃあ写真を載せるなよとも思う……。一人称の30男と女子高校生の間におこる感情というのは、それも作者自身の投影だというのなら、よっぽど肯定的にでも書かなければそうそう美しくはならないだろう。読者が俺のようにむしろ男のほうに近い年齢ならなおさらだ。

この音楽を聴いたのがきっかけだった。これには何で出会したのか不明。