高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

ラピスラズリ

ラピスラズリ

ラピスラズリ

秋の終わりの広葉樹の森で豊かに降り注ぐ木漏れ日を浴びながら荷台で揺れ動く男や女たち、死んだように枯れ葉の海に投げ出される冬眠者たちの映像はまるでじぶんの眼で見てきたかのように鮮明で、誰の記憶の底にも共通してあるものだった。何故なら同じことがきっと何度も繰り返されたのであり、もはや誰が主人で誰が使用人なのかわからなくなっているのではないかとすら皆は胸の裡で思うのだった。森から戻った召使たちが芝居の衣装替えのように主人の衣装に着替えて冬の眠りについたのかもしれず、それが代々にわたって繰り返されたのではないかと——ひとりきりの大広間で銀器を磨く召使がふと手を止めて、じぶんがここにいることは間違いであるような違和感を覚えることもたびたびあったに違いなかった。

しかしまだ早い。この時のことを語るには。順番というものがあるだろう。
たとえばトビのこと。山荘の二階で死んでいるのを後になってわたしが見つけることになる哀れなトビ——通夜の席がざっと片付けられた後の夜更けに、くるまのバックミラーに映ったのが生きているかれを見た最後だった。必死の形相で走って追いかけてきたトビ、だんだん引き離されて、諦めたのだとばかり思っていた。いのちより大事なゴム人形を取りに戻ったのだ。
おばあ様のコレクションからこぼれ落ちて仔犬の宝物になってしまった青目金髪の古めかしい玩具は、山荘の二階で誰にも知られずに痩せ細って死んだ時もトビが大事そうに抱え込んでいた。噛み跡だらけの、塗装が剥げて男の子か女の子かもはっきりしなくなったラバードール——しかしこの話もまだ早い。

これも積んでるうちに文庫が出てしまったやつ。
過去のことや全てが終わってから振り返り述べるようなことがときどき不意に挟まれていて不思議な感じになる。けどそれが何かの効果をもたらすことを意図されて書かれたのではなくてそういう書き方をする人なんだろうか。と思う。また何かの機会のあるときにこの人は読みたい。