イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』
祖母から孫娘にわたる女系三代の物語。なるほど『赤朽葉家』はこれに通じるところがあると言ってよいと思う。ともかく、まず目次を読むと、「美女ローサ」からはじまり「陰謀」「恐怖」「真実の時」……と後半に不穏な空気を抱えていることがわかる。といってもミステリーやサスペンスではないし、基本的には、家族をとりまく物語たちである。ラテンアメリカ的な魔術的リアリズム的なエピソードたちで語られるこの本を終盤訪れるのは、クーデターとそれに続く恐怖政治だ。名前は出てこないけれど、この本の舞台はチリなのだそうだ。ここに来ると魔術的な現実の存在感はかなり薄れていて、暴力と悲しみが蔓延している。それでも現代にあってもラテンアメリカの魔術的リアリズムというのは失われないものらしいのだけど。それにしてもここでも影で糸を引いているのはアメリカのCIAで、「CIAの陰謀」というセリフが冗談じゃなく現実味をもって語られた時勢もあったのじゃないかと思わずにはいられないし、社会科で少し通りすがったことがあるだけの、冷戦の現実というのはホントにひどかったのだと思う。しかし、ただ文学になってないだけで、ひどいことは今も世界に満ちてるのだろう。 調べてみると現実の独裁者は長生きして死んだらしかった。サミュエル・ドウのようにはいかなかったか。
- 作者: イサベル・アジェンデ,木村榮一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/03/11
- メディア: 単行本
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