高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

舞踏会へ向かう三人の農夫

舞踏会へ向かう三人の農夫

舞踏会へ向かう三人の農夫

 一つひとつの行為を通して、我々は自分の伝記を書く。私が下す決断一つひとつが、それ自体のために下されるだけでなく、私のような人間がこういう場合どのような道を選びそうかを、私自身や他人に示すために下されるのでもあるのだ。過去の自分のすべての決断や経験をふり返ってみるとき、私はそれらをつねに、何らかの伝記的全体にまとめ上げようとしている。自分自身に向かって、ひとつの主題、ひとつの連続性を捏造してみせようとしている。そうやって私が捏造する連続性が、今度は私の新しい決断に影響を与え、それに基づいて為された新しい行為一つひとつがかつての連続性を構成し直す。自分を創造することと、自分を説明することとは、並行して、分かちがたく進んでいく。個人の気質とは、自分自身に注釈を加える営みそのものだ。
 仮説(「この行為は私を定義する」)は実験(「これを行なったら私はどんな人間になるか?」)と混じりあう。そして、行為と注釈とのこうした混成物が個人を定義するのとまったく同じように、一人ひとりの人生も、その時代の精神について理論を立てるとともに、身をもってその精神を体現する。別個の生一つひとつが、それぞれ触れるものすべてを吟味し、説明しながら、つねに定義しあい、作り直しあっている。生きることによって、我々は自分の時代の伝記作家になるのだ。

これは……なんなんだろうな、ものすごく面白かった。この表紙にもなってる "Three Farmers on Their Way to a Dance" と名付けられた写真に説明しがたく惹きつけられた現代の語り手と、写真のモデルらしきアドルフ、ペーター、フーベルトという20世紀はじめを生きた三人の(戸籍上の)兄弟、それにオフィスから偶然見かけた赤毛の女性の影を追う現代のピーター・メイズという男の三視点が順番に語られていき、ストーリー、ストーリーというかこの本になっていく。その写真が撮られたのは1914年ごろ、つまり第一次世界大戦の直前で、この時代、20世紀のこと、その歴史や伝記的なことが語られる。あーなんか忘れてきたけど、中で何度も言われてるように*1歴史や伝記には、それを読む人間によって書き換えられるという相互作用がある。だから現代の人物たちは1914年の過去をもとに自分を再構成し、三人の農夫たちのパートも史実という体で語られているかどうかは怪しい。
なんかうまく言えないけれど、二段組、見開きでびっしり詰まった文字を目にしたときの多幸感というか、そういうのもよい。あとすげー読み易かった(のはなんなんだろ)。個人的な事情だが現代アメリカのパートを読むとき、『アメリカの七夜』で思ったような光景が思い出された。
1985年。

*1:といいつつ引用箇所が見つからない