イスラーム文化 その根底にあるもの
- 作者: 井筒俊彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1991/06/17
- メディア: 文庫
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とてもよかった。オイルショックから数年、中東情勢に日本の目が向いてきたころなのだろうか?昭和56年 (=1981年) の講演をもとにしている。社会的な情勢というのは10年20年経てば変化するものだが、そもそもまさにその根底にあるものについてはそうやすやすと変わるものではない。世界情勢的なことにもわずかに触れられているものの本題はイスラームそのもので、今なにが起きているかではなく、何がそもそも横たわっているのか、というこちら側から知っていくのが自分には合っていると思われた。
重要そうなところ。この前読んだ本でも同じようなことが触れられているな、というのが多かった。俺はこれを自分の言葉で書いており、今の俺の固定観念に毒されているはずなので参考にしないように。
- 『コーラン』がイスラームの究極であり中心。この書物は今後一切変更されることがない。
- それに後世記された「ハディース」という預言者の言行録もあわせてさまざまな規範のもととされる。
- 二者ともこれから変更の余地がないので、おのずとそれをどう解釈するかというのが重要になってくる。
- イスラームにおいては生活のすべてが神の意志に満ち満ちているのであり、その意味で聖俗を分かつことはできない(そもそもそういう発想がおきない)。
- キリスト教では分離されるもので、その原則のもとに近代の西洋思想が発展してきたこともあり、イスラーム圏で西洋的な民主化・近代化しようとするとそこに摩擦が生じることになる。
- イスラームにとってはユダヤ教もキリスト教も同じ神を信仰する宗教である(wikipedia:アブラハムの宗教)。
- これ面白いと思った。ただしイスラームの前に成立したこの二つの宗教は彼らにとっては間違っているということになる。
- なのでイスラーム帝国に支配された地でもキリスト教の信仰などは護られた。(ただし重税つき)
- 無理に改宗させると税収がなくなるという政治的な側面もあった。
- で、『コーラン』や「ハディース」を絶対視するのは変わらないのだが、それをどう解釈するかではなく、その裏に隠れた本質にこそ意味があるとする(密教的な)一派がシーア派。これは他の派からすると異端。
読んでるとイスラームとは『コーラン』でありその解釈でありイスラーム法であり、俺が一般に考えるような宗教ではなくイスラーム共同体の社会のあり方まで含んでこそのイスラームであるので、そこの所を十分に意識しておかないと、宗教をそもそも知らない身では理解ができないのだろうと思った。ちなみにこの本ではニュース的に話題になりがちなイスラーム法の個別の例(女性の扱いだとか、罰についてだとか)については触れられていない。
そういえば前書きでポパーへの言及があり、まさにこの本と同じアマゾン便でポパーの本を受け取っていた俺としては大いに喜んだ。