高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』

サントル・ダキエルの欠点を挙げれば、シャワーの数の少ないことで、なんと十部屋にひとつの割合だ。おまけに、数少ないこのシャワーは、いつ見てもひとりのノルウェー人青年に占領されている。この男は、バマコがこんなに猛烈な暑さだとは知らずに来たという。アフリカ内陸部は、絶えざる灼熱の世界である。焼けつく光線に永遠にさらされる高原。太陽は地上すれすれまで迫る勢いだ。うかつにも日陰から一歩出れば、その場で全身が炎上する。暑さだけでなく、アフリカまで来たヨーロッパ人がへこたれるのには、もうひとつ、精神的な要素もある。彼らは、ここが地獄の底と知っている。海からも、気候温和な風土からも、遥かに遠い。この距離感、閉塞感、囚人となったかのごとき圧迫感。それがために、ヨーロッパ人の境遇はいっそう耐えがたいものとなる。ノルウェーの青年は、数日の滞在ですでに煮上がり、茹で上がって、青息吐息、すべてを投げ出して退散しようにも、帰りの航空便はすぐにはない。シャワーの下に居続けることで、かろうじて生き延びてるんだ、と彼は言う。

p.328

アフリカの人びとってどんなだろうか? 先入観で挙げるなら、のんびり屋、みんな仲良しの小集団、陽気で開放的なイメージ、こんなところかな。そしてそのような一面も確かにあって、この本にはそんなアフリカも描かれてはいる。けれどその反面、小さな氏族が多数ひしめきあっていることから来る閉鎖的で陰険な価値観、魔術へのおびえが生みだすどうしようもない暗さ、それから過酷な自然と悲惨な歴史、そういうものもあわせて具えている。『黒檀』はそういったアフリカの持つ点のどれが善く、悪いとか、我々はこれについて知るべきだとかいう押しつけがましい視点はなしに、それを一人の体験という視点から書いている。楽しい話も辛い話もまじえて、各地における短いエピソードがたくさん収録されている。少しずつ読んでいったらいいだろう(おれも途中でちょっと飽きて少し措いていたのだけれど、また読みはじめてみたらなんで飽きてたんだろう、と思うほど読めた。気分が変わったのか、内容が変わったのかは分からないが)。淡々とした印象があるのは漢語調だからだろうか。

巻頭に大陸の地図があるので、国名と照らしあわせながら読むといいだろう。おれはVimmerだからウガンダの位置は知ってたけどね(だいたい)。

いろいろ面白い話はあるのだけど、特にリベリアの話は酷くて、アメリカの解放奴隷(アメリコ・ライベリアン)がこの地に降ろされた結果、かれらが元々の住民と混じりあうことはなく(そりゃ当然だ)、かの地での経験と知識をもとに、同じ奴隷制をかれら自身で築きあげるっていう話。そのあとこの大統領を殺したサミュエル・ドウという軍人あがりの男が継ぐのだが愚かな政治がつづき、やはりろくな死にかたを死ない。大国も自国の利益にそぐわなければ手を差し延べることもない。

最後に、ヨーロッパとアフリカとの接触が悲劇なのは、「最初の接触が、ほとんどの場合、強奪者、略奪者、暴徒、犯罪人、奴隷商人といった、ろくでもない種類の人間によってなされたことによる(p.376)」という。一面にはそれもあるのだろうと思う。

黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)