高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

ナードの人生を描いたものだというわけで当然のように躊躇いなく説明なく現れるコミック/ファンタジー/SF/TRPGへの言及(と怒涛の割注……これは翻訳チームがノリノリで差し込んだのだと思われるが)に酔うようにして読める。それと同じく目を惹くのが場合によると本文よりもページを占有する脚注で、こちらはこちらで別のストーリーを語るのだけれど、それも見過ごされていいものではなくてこの本の核に密接に絡んでいる。物語はオスカーとその母親の母親の両親にまで遡り、その中でキーとなるのはフクという呪いなのだが、どうやらオスカーの話でもありそれを通して描かれるのは呪いの元凶である(実在の)トルヒーヨという男でもあるらしい。と気づいた(おれは残念なことにこの手の一見表層的でないことに気づかずどうも頭の中で理解できないと思いながら読むことが多いのでこのことは取り敢えずよかった)。で、この固有の用語たちというガジェットを使って幻想的にしか書き表せないその強大さなんだろうか。この本に前後して『族長の秋』など読んだら面白いかもしれない。

 けれども正直に言おう。トルヒーヨが欲しがった少女といった話が話題になるのは、この島ではすごくありふれたことだった。オキアミくらいありきたりだったのだ(別にこの島で特にオキアミがありきたりだというわけでもなかったけど、どういうことかはわかるだろう)。あまりにもありきたりだったので、マリオ・バルガス=リョサはただ口を開けるだけで、空気中をただよっているそんな会話を吸いこむことができたくらいだった。誰の故郷でも聞かれる好色漢の話の一つというわけだ。分かりやすい類のお話のひとつで、というのも本質的に単純な話だからだ。トルヒーヨが屋敷や財産を奪い、父親や母親を牢屋に入れたって? そりゃあその家のきれいな娘とやりたかったからさ! で家族はおとなしく従わなかったってわけ!
 これって完璧な話だろ。楽しい読書にうってつけの話だ。
 だがアベラード対トルヒーヨの物語にはもう一つの、あまり知られていない別バージョンがある。[……]