高校生のための読書ガイド

という名の、おれの読書感想にっき。小並感/ネタバレ有で

アブサロム、アブサロム!

アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

「[……]——あの娘は話の途中で一瞬ちらりと現われただけで、ほとんど一瞬しか触れられなかったから、お祖父さんにいわせるとそれはさながらマスケット銃の閃光のなかに彼女の姿をも一瞬垣間見たような感じだったという——うつむいた顔の、片頬と顎が、ヴェールのように垂れた髪を透かしてちらっと見え、持ちあげられた白いすんなりとした腕、㮶杖をにぎっている華奢な手、ただそれだけだった。
p.286

サトペンという男の人生の顛末を、その周囲にいた人間たちの口から語る形式の物語で、なのでつねに伝聞の語りであって(段落が変わるたびに開き鉤括弧があらわれてそのことを再認識させられる)、実質的な地の文をなしているのは伝聞や、伝聞の伝聞の伝聞であることすらある。地の文はほとんど顔を見せず、他の本ならば例えば斜体で挿入されるような、現在の聞き手の描写であり、主となるのはあくまで語られた過去だということが半分あたり読むまでまったく腑に落ちていなかった。物語、そうしてたくさんの伝聞を重ねてじくりじくりともどかしく描かれるサトペン家である。

最初ローザ婆の語りからはじまるのでサトペンは悪人なのだと信じきって読み始めるのだが、サトペンやその家族(を語る者たち)に寄り添いながら読み進むうち、しだいにただの悪人という役割が剥がれてくる……けして完全に剥がれるのではなくともその芯に抱いていた信念や性格を知るようになる。(先に書いたように)複数の様相が重なっていたりダッシュや括弧による挿入・脱線が多いこともあって読むのにかなり難儀したのだけれど面白い。解説はけっこうだるいことが多いんだけど、この本に限ってはそんなことはなかった。架空の町にも生きたというフォークナーの、他の本もたいへん興味深い。興味深いじゃねえよ気取んな、ではある。

タイトルを思いっきり間違えていてひとりものすごく恥ずかしい……修正しました。